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大阪地方裁判所 昭和34年(行)38号 判決

原告 阿信野青果食品企業組合

被告 大阪国税局長

訴訟代理人 叶和夫 外二名

主文

1  被告が昭和三四年三月四日、原告の昭和三〇年七月一日から同三一年六月三〇日までの事業年度分法人税についての更生決定及び無申告加算税賦課処分対にする審査の請求に対してした審査決定、及び昭和三四年三月四日、原告の昭和三一年七月一日から同三二年六月三〇日までの事業年度分法人税に対する更生決定及び無申告加算税賦処分に対する審査の請求に対してした審査決定はいずれもこれを取消す。

2  被告が昭和三四年三月四日、原告の昭和二九年七月一日から同三〇年六月三〇日までの事業年度分法人税についての無申告加算税賦課処分に対する審査請求に対してした審査決定の取消請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

理由

一、原告は、第一事業年度分については、被告が昭和三四年三月四日にした審査決定のうち、無申告加算税に関する部分の取消を求めている。

原告の主張によれば、原告は第一事業年度分につき課税標準額を一三万八二四二円、法人税額を五万八〇四五円とする法人税の確定申告をしたところ、訴外阿倍野税務署長は課税標準額を一三万〇二〇〇円、法人税額を五万四六八〇円、無申告加算税を五、二〇〇円とする更正決定をしたというのである(以上の事実については当事者間に争いがない)。

ところで法人税の更生決定とは当該法人が申告した課税標準額又は法人税額が政府の調査したところと異なる場合に、課税標準額又は法人税額(あるいはその双方)等を増減する決定をいうのであつて(昭和三七年法律第六七号による削陰前の法人税法第二九条第一項)、然申告加算税の賦課処分は、その賦課処分の通知が更生決定通知書上に記載されている場合であつても更生決定の内容となるのではなく、別個に無申告加算税の賦課処分がされ、その通知が更生決定通知書によつてされるにすぎないものと解されるものである。

そして成立に争いのない乙第一三号証の一及び四によれば、原告は第一事業年度分の審査請求において無申告加算税の賦課だけを不服として争つたものであり、申告法人税額及び課税標準よりも少額に更生された法人税額及び課税標準については不服の申立をしていないことが認められる。すると、第一事業年度分について、無申告加算税の賦課処分に対してだけ審査の請求がされ、被告の審査決定もこれを対象としてされているのであるから、第一事業年度分についての原告の「請求の趣旨」(第一、一、1)は結局訴外阿倍野税務署長がした無申告加算税賦課処分につき原告がした審査の請求に対し被告がした審査決定全部の取消しを求める趣旨であると解されるのである。

そして右のような解釈からすれば、第一、第三事業年度分についてはい訴外阿倍野税務署長がした各更正決定及び各無申告加算税賦課決定の双方に対して審査の請求がされ、被告の審査決定もそれぞれの両者に対してされ(なお両年度とも被告の審査決定は右二個の審査請求に対し一個の決定でされている。)、原告は本訴において右各審査決定全部の取消しを求めているものと解される(なお、原告は、右各決定の「部取消を求める租税実体法上の違法事由をも攻撃方法として併せ主張している。)

二、(請求原因第五項の1について)

1  原告は本件各事業年度の審査決定は法人税法第三五条第五項(昭和三七年法律第六七号による削除前のもの、以下同じ。)所定の理由の附記と欠く違法なものであると主張する。法人税法第三五条第五項は、審査決定機関が審査決定をする場合には、その理由を附記した書面により当該請求をした法人に通知しなければならない旨定めている。

法人税法が右のような規定をおいたのは、審査請求人が不服の事由として主張した個々の争点につき、審査決定機関の判断と理由を知り、これを検討して他の法的救済手段(行政訴訟)に訴えるべきか否かを十分検討できるようにするとともに、審査決定機関をして、恣意にながれない慎重かつ公正な判断を審査請求において主張されている個々の不服事由につき遺脱なく行なわせることを手続上保障することにあると解される(最高判昭和三七年一二月二六日民集一六巻一二号二五五七頁)。

そうであるとすれば、審査決定機関は審査決定において、審査請求人が主張した個々の不服事由につき、必ずこれに対する判断結果とその理由(その結論に到達した判断過程)とを示すことを要し、審査請求人は審査決定通知書によつてこれを知る権利を有するものというべきである。

もとより審査決定に附記すべき理由は、主張される不服の事由に対応して一様でなく、ときとしては詳細な理由の附記が要求され、あるいは比較的簡単な記載で足りる場合があるとはいうまでもないが、最少限審査請求人が審査請求において主張した不服の事由と対照し、その不服の事由に対して審査決定機関がいかなる結論をとつたか、その結論が導きだされた実質的な根拠はなにかを知ることができる程度にその理由を記載することを要するものであると解すべく、これを欠いた審査決定は取消し得るべき瑕疵を有するものというべきである。

2(第一事業年度分の審意法定の理由附記につて)

原告が第一事業年度分審査請求の対象としたのは訴外阿倍野税務署長がした無申告加算税賦課処分だけであること前記のとおりであり、成立に争いのない乙第一三号証の一及び四によれば、原告は審査請求書において無申告加算税賦課に対する不服の事由として、「原告が確定申告書を法定申告期限内に提出しなつたのは事実であるが、期限内に申告書作成の基礎となる決算書類を提出し、課税額も納付しており、これに対し無申告加算税を課するのはひどすぎる。申告納税制度はわがくにではまだ日も浅くこれを一般周知のものとして厳格に適用するのは種々の問題を生ずる、無申告加算税制度も悪質な納税者と善良な納税者とを区別しその活用を図ることが現行税法規定において最も必要である。」と主張していることが認められ、これに対する被告の審査決定通知書には審査請求棄却の理由として、「貴社申出の無申告加算税免除は認められません。」とだけ附記されていることについては当事者間に争いがない。

ところで、法人が法人税の確定申告期限後に確定申告書を提出した場合においては、法人が法定の確定申告期限内に確定申告書を提出しなかつたことにいつて正当な事由がなかつたと認められる場合に、無申告加算税が賦課されるのであり(法人税法第四三条第二項)、または再調査請求や審査請求は不服の事由を記載した書面をもつてすべきものとされているのであるから(法人税法第三四条第一項、同三五条一項)原告が被告に対してした審査請求において、法定の申告期限内に確定申告書を提出していないことを自認している以上、原告が無申告加算税の免除を求める(具体的な無申告加算税債務の不発生の主張)ためには原告が確定申告書を期限内に提出しなかつたことについて正当な事由があつたことを主張しなければならないのである。

ところが原告が審査請求した前記のような不服事由は、右正当な事由の点に関するものではなく本件において政府は運用上無申告加算税の賦課をせずにこれを事実上放棄すべきであるというに帰するものであり、不服の主張としては法規の根拠を欠くものであつて法的に無意味なものであることは明白であるというほかはない(却つて、その免除ないし放棄は違法である。)。このような場合被告が原告め右不服の主張を排斥するについては、必ずしもその主張自体が法律上無意味であつて採用できないゆえんを説示する必要はなく、単に原告の主張が認められないことを説示するだけでも違法ではないというべきである。

なるほど、被告が審査決定通知書に記載した「貴社申出の無申告加算税免除は認められません。」という理由自体は原告の不服の主張が認められないという判断の結論を示すだけであつて、その結論のよつてきたる理由についてはなんら説示するところはない。

しかし(右審査決定通知書の理由の記載を、前記認定の審査請求書の不服の主張と照らし合わせて読めば、通常人において、右審査決定通知書の理由の記載から、右判断の理由が、原告が審査請求書で主張した不服の事由自体が法律的に認められないというのであることを十分に了知することができたものと認められる。

そうすると、被告の右審査決定通知書の理由の記載は甚だ不親切で不当であるとのそしりは免がれないにしても法人税第三五条第五項所定の理由の附記を欠く違法なものであるということはできない。

原告の主張は採用できない。

3(第二事業年度の審査決定(法人税額及び課税標準並びに無申告加算税についての)の各理由附記について)

成立に争いのない乙第一三号証の二及び四によれば、原告が第二事業年度分の審査請求において主張した不服の事由は、(イ)無申告加算税二万八、三五〇円の免除ないし放棄、(ロ)貸倒準備金三万六、七四六円損金算入、(ハ)公租公課一万二、八一四円の損金算入であり、無申告加算税の免除を求める根拠として第一事業年度分におけると同一の主張をしていること(原告は本件各事業年度の審査請求を同日附でなし、審査請求書は各事業年度別に作成されているが、それについての原告の詳細な主張を記載した書面は各事業年度分を通じて一通が作成され無申告加算税の免除については、原告は三事業年度を通じ「第一事業年度分について前した主張をしている。)が認められ、これに対する被告の審査決定通知書には、審査請求棄却の理由として、「貴社申出での貸倒準備金の損金認容その他について貴社の申出に理由がありません。」とだけ附記されていることについては当事者間に争いがない。

右審査決定通知書の理由は、原告が審請求で主張した三つの不服事由のうち貸倒準備金の損金算入については、その主張が認められない旨を明示しているが、その他の二つの不服事由については単に「その他」という記載がなされているだけであつて、このような記載だけでは原告が審査請求で主張した不服事由について被告が遺脱なく判断したかどうかも必ずしも明らかでなく、原告が審査請求で主張した個々の不服事由に対する判断の結論を明示したものとはいえない。

又貸倒準備金の損金算入についても、これが認められない。理由についてはなんら説示するところがなく、前記のような結論がとられた根拠は全く明らかでないとわなければならない(原告の審査請求書の不服の事由と対照してみても同様である。)。

そうであるとすれば、第二事業年度分の法人税等に関して被告がした審査決定は、法人税法第三五条第五項所定の理由の附記を欠く違法なものであり、同決定の一部取消を求める租税実体法上め違法事由(攻撃方法)の存否について判断するまでもなく全部取消を免がれない。

4  (第三事業年度分の審査決定((法人税額及び課税標準竝びに無申告加算税についての))の各理由附記について)

成立に争いのない乙第一三号証の三、四によれば、原告が第三事業年度分の審査請求において主張した不服の事由は、(イ)無申告加算税一万二、五〇〇円の免除ないし放棄、(ロ)有価証券売買損失一六万〇、九六六円の損金算入であり、その根拠として、(イ)無申告加算税の免除ないし放棄については第一事業年度分と同一の主張をし、(ロ)有価証券売買損失の損金算入の点については、「大阪製鋼五〇〇株買値一二万九、九〇〇円、売値七万一、二九一円、損失五万八、六〇八円、昭和三二年六月三〇日。大阪製鋼五〇〇株買値一二万八、四〇〇円、売値七万一、二九二円、損失五万七、一〇九円、昭和三二年六月三〇日。大阪製鋼五〇〇株、買値一二万一、四三五円、売値七万六、二八四円、損失四万五、二五一円、昭和三二年六月三〇日。合計一六万〇、九六六円の有価証券売買損失の記入洩れがある。」旨主張したことが認められ、これに対する被告の審査決定通知書には審査請求棄却の理由として、「貴社申出の記帳洩れ、損失の損金認容の件は認められません。」とだけ附記されていることについては当事者間に争いがない。

右審査決定通知書の理由は、原告が審査請求で主張した不服事由のうち、(ロ)有価証券売買損失記帳洩れ分の損金算入が認められないという判断の結論を示すに止まり、(イ)の無申告加算税免除ないし放棄の主張に対しては被告の判断の結論すら示されておらず、又(イ)の有価証券売買損失記帳洩れ分の損金算入についても、これが認められたい理由についてはなんら説示するところがな前記のような結論がとられた根拠は全く明らかでないといわなければならない(原告の審査請求書の不服の事由と対照してみても同様である。)。

そうであるとすれば、第三事業年度分の法人税等に関し被告がした審査決定は法人税法第三五条第五項所定の理由の附記を欠く違法なものであり、同決定の一部取消を求める租税実体法上の違法事由(攻撃方法)の存否について判断するまでもなく全部取消を免がれない。

三、(第一事業年度分の審査決定に関する請求原因第五項の2の主張について)。

無申告加算税の賦課処分が法人税の更正決定とは別個の処分であつて更正決定の内容をなすものでないことについては前に説明したとおりであり、無申告加算税の賦課処分については青色申告法人が青色申告書を提出した事業年度にかかるものについても、その理由を附記することを要しないものである。

原告の主張は採用できない。

四、(第一事業年度分の審査決定に関する請求原因第五項の3の主張について)

原告が決定の申告期限内に確定申告書を提出しなかつたことは原告の自認するところであり、そうである以上原告が申告期限内に確定申告書を提出しなかつたことについて正当な事由がないと認められる場合には無申告加算税の賦課を免がれないものであるところ、原告の方で、法定の申告期限内に確定申告書を提出しなかつたことについで正当な事由のあつたことを具体的に主張しないことなど本件弁論の全趣旨によれば右正当の事由はなかつたものと推認される。

又原告は法定の申告期限内に確定申告書作成の基礎となる決算書類を提出していたから無申告加算税を賦課するのは違法であると主張するが、法人税の確定申告は確定申告書の提出をもつてする要式行為であり、かかる申告書が法定申告期限内に提出されない以上、たとえ原告主張のように右申告書作成の基礎となる決算書類が決定の申告期限内に提出されたとしても、申告期限内に確定申告があつたものとはいえない。

原告の主張は採用できない。

五、結論

以上のとおりであつて、原告の本訴各請求のうち、原告の第二事業年度分法人税についての更正決定及び無申告加算税賦課処分に対する審査請求に対して被告が昭和三四年三月四日にした審査決定竝びに原告の第三事業年度分法人税に対する更正決定及び無申告加算税賦課処分に対する審査請求に対して被告が同日した審査決定の各取消を求める請求は、その理由があるからこれを認容すべく、原告の第一事業年度分法人税についての無申告加算税賦課処分に対する審査請求に対して被告が同日した審査決定の取消を求める請求は、その理由がないからこれを棄却すべきである。

よつて民事訴訟法第九二条本文、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山内敏彦 羽柴隆 小田健司)

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